やれやれ

ハルキ通信

やれやれ

「冗談じゃない。でも仕方がないことなのか」

7時15分。誰もいない教室で一人僕はこうつぶやいた。

僕はマメな性格だ、という評価は自分よりも他人から判断されることが多い。

学校の先生としてマメな性格は教室の美しさにこだわるところに現れる。

美しい、といっても素敵な観葉植物を教室に置くタイプでもない。植物なんて申し訳ないぐらいすぐに枯らしてしまう。植物を育てることに関して、僕は微塵もマメさがないようだ。

それでは、どんなところがマメなのかというと、児童が帰った放課後、誰もいない教室で一人せっせと机を整えるのだ。

この行動に対して、「先生がそんなにサービスしちゃ、子どもの自主性が育たない」なんて言わないでほしい。

実際、この「放課後の寂しい整理整頓」を毎日やっているからこそ、僕のクラスは綺麗なのである。そしてクラスだってそこそこ安定している。

さて、そんな時間と体力を削ってまで机の整理整頓をする男が、この日は何に絶望したと言うのだろう。

答えはわかるだろう。整理整頓の「裏」があったからだ。

つまり机がグチャグチャだったのである。


この事件があったのが木曜日。時は月曜日まで遡る。

月曜日。体にいくつもの鉛を抱えているかのように体が重かった。

退勤時間は20:00。帰宅時間は20:30。超という言葉がお似合いの残業である。

遅くなった理由は、宿泊学習の準備にある。

ただでさえ、行事の準備というものは時間がかかる。

そして今はコロナ禍だ。

児童にも「PCR検査」をしなければならない。

PCR検査キットを児童の人数分、シールを貼ったり、袋に詰めたり…

この作業が月曜日。

本当につらかった。見る人によっては僕の後ろに鉛が見えていたのかもしれない。

火曜日。

「朝は目覚めても昨日の疲れ引きずったまま」

という歌が尾崎豊の曲にある。不本意ながら頭に流れてきた。

月曜日の疲れを引きずったまま火曜日を迎えた。

午後は翌日の準備がある。

いや、待て待て。翌日は文化の日だ。祭日だ。

それが出勤だった。本校は私立小学校。小学校受験というものは今あるのだ。

受験の試験官は当然、職員である。

つまり、我々に文化の日なんぞ存在しないのである。


鉛という疲れを引きずったまま迎えた入試当日。

もう限界だった。

早退した。

入試での体調不良なんて受験生のみを思うが、案外そうでもなかった。

試験官も体調不良を起こす昨今なのだ。

家に帰宅後、一瞬にして泥のように眠った。


入試というのは教室を試験用にカスタマイズをしなければならない。

僕の教室は保護者の控室に変わる。

机を動かすことなんて当たり前で、掲示物に子どもの名前がないか厳重にチェックされる。

少々、骨の折れる作業。でも、担当は僕ではない。他の先生だ。他の先生が机や掲示物をいじくる。

今、思えばこれが間違いだ。

最初から僕が僕の教室をすべて担当すればよかった。


準備をしたら片付けもする。

僕の教室は入試を終え、元通りになるはずだった。

しかし、僕は体調不良で早退していた。

「元通りの教室」なんて実際は担任しかわからない。

その担任がいない。

元通りの教室がわからない。

よって、僕の教室は元通りにならなかったのだ。

体調不良のダメージを翌日まで引きずったまま、次の日に僕は通勤する。

そして


なにも片付いていない教室を見たわけだ。

早退した僕が悪い。

でももう少し元通りに戻してくれてもよかったのでは。

やれやれ。

疲れというのは、みんなから思いやりもなくしてしまう。

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